• 幼体
    篠塚梓
    ふわふわした丸い生物に、私は強烈な可愛らしさを感じる。たとえば冬毛の雀やエゾモモンガ。つぶらな瞳と相まってとにかく可愛らしい。この生物たちに対する「可愛い」という感覚は、人間の庇護欲からくるものではないかと考える。視覚的な丸みや柔らかさは、哺乳類の子供を連想させる。その外見から、無意識にその生物の攻撃性のなさや無力さを感じ、安心感からくる癒しを感じたり、庇護欲に駆られたりする事で「可愛い」という感覚を得るのではないだろうか。 また、成体の状態ではなく、子供つまり「幼体」の状態のときのみふわふわで丸い「アザラシ」や「ペンギン」の生態に大きな魅力を感じる。どちらも成体でも可愛らしく人気の動物だが、「幼体」時代のふわふわと柔らかそうな毛が生えた姿には勝らないのではないだろうか。また、これからどのような過程を経て「成体」へと変化していくのか想像すると、成長への期待感なのか、想像する楽しさなのか、私はとてもわくわくする。 そこで、私は庇護欲をそそる可愛らしさと成長に対する期待感を生み出すことを目指し、彼らのような「幼体」と「成体」が大きく違う生物を参考にしつつ、生まれた瞬間から形の変わらない、成長という概念のない「人工物」の「幼体」を想定して制作した。作品の制作においては、人工物の構造に、「生物が成長する過程でみられる特徴的な姿」を抽出して落とし込んだ。いずれの「幼体」も、成体になるまでの過程の一瞬を切り取ったものである。幼体の姿を見ると、成体になるまでの形態の変化や彼らの生態を想像することで前後の時間軸を感じることができる。またそうすることで目の前の幼体の未熟さや弱々しさを感じることができるはずだ。目の前で確かに生きている「人工物の幼体」に可愛らしさを感じてほしい。