• 疑似的な目
    宮本堅太
    人が物を見るとき、無意識にも目から得た情報にレベルを付けて捉えているはずだ。人は多くのものを見ているようで、実は見たいものしか見えていない。一つの絵画を見るときも、絵画全体を見ているようで、実はたった一部だけを見てその絵画を把握した気になっているだけかもしれない。なのであれば、その「見えている部分」は自分から見た「その絵画らしさ」を作り出す箇所であり、視覚上の絵画の正体と言えるだろう。
    私たちが世界から受け取る情報の8割以上は視覚によるものだとされている。そのうち、はっきりと物の形や色を捉えることができる範囲は非常に狭く、視野全体のうち中心のたった1,2割程度だ。それ以外の範囲は曖昧な形でしか認識できていない。つまり情報入力の大半を視覚が占めつつも、私たちはその視覚の多くの部分を脳内で補完することで成り立たせているのだ。
    この視覚の不確実さをモチーフに、インタラクティブ・グラフィックスとして表現したものが本制作である。
    プログラミングによって設計したルール、秩序を元に絵画を変形させる。マウスカーソルは鑑賞者の疑似的な目としてスクリーンに存在し、カーソルから近い位置のピクセルは細かく正確に、離れた位置のピクセルは曖昧で不正確に描画される。単にマウスの位置情報による入力だけでなく、類似色の検出、ピクセル同士の色の差異を参照しながら、どのピクセルを正確に描画し、どのピクセルを変形させて描画するかを毎フレーム決定する。鑑賞者はカーソルを動かして画面内をさまよいながら、自分にとって最もその絵画らしさが現れているポイントや、最も惹きつけられるポイントを探る。
    スクリーン上に映し出される色や形は私たちの視覚をそのまま反映するものではないが、普段無意識に行っている視覚情報のレベル付けをスクリーンの中で疑似的に再現することで、私たちがいかに一部の情報で物を見て、それを元に脳内で補完し、認識しているかを客観的に捉えなおすきっかけにしてほしい。